2009/05/04 ... Super Comic City18
⇒東3ホール モ7b「遙陽」※花井×田島配置(当合同誌も搬入致します)
2009/05/17 ... Comic City大阪74
⇒(申し込み済・配置未定)「遙陽」※花井×田島配置(当合同誌も搬入致します)
2009/08/15 ... Comic Market 76
⇒(申し込み済・当落未定)「遙陽」
「花井って、チョコ本命っぽいの貰ってなかったっけ?」
「あ、そーいや、先月そんなこと言ってたね」
「そうそう!」
「もうお返し買いに行ったりしたの?」
何でオレってこういう星回りなんだろうなぁ、と花井は半ば諦めつつ、振り向いた。
「買いに行く暇なんてねーって。大体どんだけオレら一緒にいんだよ。そんくらい聞かなくても分かるだろ?」
悪気があって聞いている訳ではないのは分かるが、これ以上は聞いてくれるなよと心の中で呟き、花井は僅かに眉を寄せた。
「じゃあ、返事はどーすんの?」
聞いてくれるな、と思った途端に浴びせられた質問に、花井はがくりと肩を落とした。
この声は、田島だ。
どうせ茶化す為に聞いて来たのだろうと思い、溜息を吐きながら顔を上げると、予想外に間近に田島のそばかすが目に入って、花井は思わず身体を引いた。
引いてみて分かったのは、田島の眼が笑っていなかったことだ。口元は笑っているのに、だ。
(たとえば、こんなはじまり / 泉谷紫苑)
昼食後に三組の教室で少し雑談を交わした花井は、予鈴と共に七組へと戻った。そう長くもない昼休みの間に、空はすっかり雲に覆われてしまっている。日光が当たらなくなっただけでこうも違うのかと思う程、体感温度は下がっていた。
戻ったらまず上着を着よう、と思っていたのだが、椅子の背にかけておいたはずのセーターはいつの間にか姿を消していた。ロッカーに仕舞ったんだっけ、と思いつつ教室後部のロッカーを開けてみたが、そこにもない。首を捻っていると、「何、辞書?」と背後から声がかけられた。
「辞書?」
「何だ違うのか」
声の主である阿部は、花井の問いに気のない声を返した。改めて見てみると、確かにロッカーに入れておいたはずの英和辞書が見当たらない。
「田島が貸せって言うから、お前の渡しといた」
「…阿部……」
今日は一時間目がグラマーの授業だったから、英和なら阿部も持っているはずだ。何故わざわざ自分のものではなく花井のを渡す必要があるのか。その問いは吐き出した溜息で十二分に伝わったらしく、阿部は相変わらずの無愛想な声で淡々と告げる。
「あいつが、花井のがいいっつったんだよ。九組、次自習だからその間に宿題やるんだとさ」
(JOKER's temperature / 立倉麻貴)
叫びそうになった言葉は、すんでの所で押し留めた。襖一枚隔てて隣の次兄の部屋に彼女が来ていることを思い出したからだ。普段なら多少煩くしたところでお互い様だが(何せ古い家で、防音性などあってないようなものだからだ)流石に彼女と一緒にいるところを邪魔しては後でどんな仕返しをされるかわからない。
叫ぶ替わりに携帯を握り締め、感情を抑えるように蹲る。短い文面の向こうに真っ赤な顔をした花井の顔が見えるような気がして、何度も何度もその文章を目で追って。
その内に、想像だけでは足りなくなった。明日にはまた朝練で顔を合わせることになるし、今日だってほんの数時間前までは――志賀の都合で普段よりも大分早い時間に部活が終わったとは言え――共にグラウンドで走り回っていたのに、足りなくなるなんておかしいと自分でも思うのだけれど。
返信のキーを押し、文面を編集する。件名に自動的に付けられた「Re:」の文字は面倒だからそのままだ。
そういえば花井は、返信の度に件名をきちんと書き直してくる。大体はその時の用件に合ったものを、そうでなくても「Re:」を付けたままにはしないことが殆ど。何度もメールをやり取りしていると、「Re:」が増えていくのが鬱陶しいのだと以前言っていたのを思い出した。田島はそんなことを気にすることはなく件名の欄は開きすらしないのが常なので、鬱陶しいという花井の気持ちはよくわからない。
(春色メッセージ / 立倉麻貴)
「行く場所は決まってんのか」
相談くらいしろよなー、とぶちぶち文句を言いながらも、怒っている訳ではないというのが分かって、田島は胸の辺りがほんわりと温かくなった。
「うん、熱海」
「は? 温泉かよ! つか、何で日帰りなんだよ。どうせなら、連休とかで行った方がいーんじゃねぇの?」
熱海といえば、温泉。
まぁ普通そうだよなーと田島も思ったが、目的はそうではないのだ。
「んー。でも、どうしても今度の日曜に行きたいんだよね」
「仕方ねぇなぁ。一応、土曜か月曜に休めるか日程詰めてみるけど、ダメだったら日帰りっつーことでいいか?」
まったくもう、と軽く溜息を吐いた花井は、一息おいて、くすりと笑った。
「しっかし以前ならお前のスケジュールと合わすのが大変だったのに、何か変な感じだな」
照れたように頬を染めて笑い掛けてくるその表情は、いつまでたっても変わらない。
この笑顔をいつまでも自分のものにするためには、どうしても、それが必要なのだと田島は決心を固くした。
(難儀な愛の伝え方 / 大人設定 / 泉谷紫苑)