C02 / 花を愛する人

◆花井総受 / 全年齢対象
◆A5オフ / P76 / \700-
◆2008/08/24発行
Konzertさまとの合同誌第2弾
◆花井が西浦っこに愛されている短編集
◆原作設定(一部短編に未来設定・パラレル有)




sample

 昼休み、部室に物を取りに来た花井が部室の扉を開けてまず最初に見たものは、畳の上にごろんと転がるチームのエース。いつもならば必ずと言っていい程一緒にいる九組面子は気配すらない。
 陰に隠れて驚かそうとでも思っているのか、と周りを見渡した花井ではあるが、すぐにそれはないと考え直した。確かにあの面子ならやりそうなこととはいえ、驚かせる対象となる誰かが必ずここに来るとは限らないし、そもそも三橋を床に転がしておく必要もないだろう。
 その三橋も、ドアに背を向けていたから最初はよくわからなかったが、どうやら眠ってしまっているようだ。静かな室内に規則正しい吐息の音が微かに響いている。

(daydreamin' / 三橋×花井)

 普段ならば朝練のために陽が上がって間もない頃に登校するから暑さも少しはマシなのだけれど、今日から期末試験前の部活動禁止期間に入ったからそこまで朝早い時間帯ではない。それでもまだ午前中、一日は始まったばかりなのに、どうしてこうも暑いのだろう。私立校や近所に空港なんかがある学校ならともかく、この西浦高校には空調なんて贅沢なものは存在しない。
 額や首筋に汗の玉が浮かんでは流れていくのを感じながら、阿部は七組教室の自分の席に落ち着いた。時刻は予鈴の十五分と少し前、既に登校しているクラスメイトはそれ程多くない。朝練のある日ならば片付けを終えて着替えに入っている頃だろうか。
 鞄の中から教科書ノート資料集その他一式を机の中に移し替えた阿部は椅子の背凭れに肘をつくように身体を捻り、ひとつ後ろの席に座っている野球部主将の姿を見やった。

(淡い秘め事 / 阿部×花井)

 ローテーブルの硬い天板の上で、携帯がぶるぶると振動を伝えてくる。キーボードの上を走らせていた手を一旦止めてそちらを見やったのと同時に振動は止まり、代わりにサブディスプレイがぴかぴかと光った。
 デジタルの時刻表示の上にメールのアイコンがついている。誰からだろう、と折り畳みの携帯を開くと、そこには久しぶりに見る名前が表示されていた。
 内容を確認し、そのまま返信ボタンを一度押しはしたが、メールでなく電話の方がいいかと思い直して表示をアドレス帳に切り返る。さ行の真ん中辺りの名前を選択して発信ボタンを押すと、ワンコール鳴るか鳴らないかで通話が繋がった。もしもし、と低く響く声に懐かしさを感じる。
「巣山? どうしたよ、いきなり」

(Andante / 大学生設定 / 巣山×花井)

「ったく、あいつは…」
 腕時計に視線を落として、ひとつ溜息をつく。あと一分と少しで三時間目が始まる時刻、なのに何故南門なんかに俺がいるかと言うと、水谷が呼び出してきたからだ。
 何処からの情報だったのか、一足早く三時間目のオーラルが自習になったとかぎつけてきたらしい彼が、つい五分程前――つまりはこの休み時間の間に寄越してきたメールには、たった一言『三限始まるぐらいに南門に来て』と書かれていた。末尾に星マークの絵文字なんか付けるぐらいならまず件名を書いて寄越せ、と思う。きらきらと黄色く瞬くそれは、何故だか送り主の笑顔を彷彿とさせた。

(太陽と奏でる夏のラプソディー / 水谷×花井)

 七組の教室前、廊下側の壁に凭れて話し込んでいる彼等が遠目でも目を引くのは、ふたりとも周囲の生徒より頭ひとつ、もしくはそれ以上抜き出る位の身長であることも理由のひとつではあったが、その飛び出た頭もそれなりに目立っているからだ。
 一方は金髪、もう一方は坊主頭にタオルを巻いている。野球部応援団長の浜田と、同じく野球部の主将である花井。騒がしい廊下では話の内容までは流石に聞こえては来ないが、ふたりとも笑っているのははっきり見える。
 何の話をしているのだろう。そう思うのは、泉が彼等に友達とはまた別の特別な感情を持っているからだった。
 浜田に対しては、元先輩現同級生という間柄。
 花井に対しては、チームメイトで同じ外野手同士で――
(クソ、)

(青春競争曲 / 泉×花井)

 受験まではあと一ヶ月を切っている。ここまでの勉強も順調で、受験に際しての懸念は花井には見当たらない。英語だけでなく他の教科を見ることも時々あるが、そちらもほぼ完璧に近かった。これなら明日受験でも大丈夫だ、そう思いながらも花井の口唇から溜息が漏れる理由は他にある。
「なぁ、西広」
 頬杖をつき、出来るだけ軽い口調を装いながら、花井は口を開いた。
「何処ら辺が不安なんだよ。言っとくけど、俺の中学ん時より全然成績いいぞ、お前」
「何処っていうんじゃないんですけど、やっぱり何か授業だけじゃ不安なんですよ。周りみんな塾とか行ってるし」
「にしたって……」

(プリズム / 家庭教師&生徒設定 / 西広×花井)

 一年生だけの新設部、という特有な性質もあってか、野球部の面子は基本的に上下関係をそれ程気にかけないような印象がある。もちろん最初に応援団の一因として顔を合わせた時はそれなりな対応だったけれど、馴染んでくるとあっという間にフランクになった。あんまりがちがちな上下関係はオレもあまり好きじゃないから、今みたいな雰囲気はむしろ嬉しい。
 そんな中、彼だけはそういうところでもきっちりしている印象は抜けなかった。初対面の時よりは大分気楽に話してくれるようにはなったけれど、ふとした時に敬語だったりするのでそこでこちらがつい身構えてしまっている。まぁ、彼は同学年の浜田に対しても年上だからという理由で未だに敬語を崩さないらしいから、人間関係云々以前に性格の違いだろうか。
「俺も吃驚しましたよ。ここ、松田さんのクラスだったんですね」
 そう言って廊下をちらりと見上げて――クラス表示を確認したのだろう――それから再び、こちらを見下ろしてくる。視線は机の上に散らばっている紙に向いていた。

(届け、君の歌 / 松田×花井)

※見本のないカプは、相方46の執筆によるものです。